令和元年11月3日
小川 誠
田植えはいらない
草取りもいらない
肥料もいらない
することは一年中田んぼに水を入れておくことだけ。
そして、秋に稲穂が頭を垂れたら、収穫する。
そんな、何もかも自然に任せっきりの米作りができるようになりました!
嘘のような話ですが、本当です。
稲が多年草化した、不耕起・冬期湛水(冬でも水を入れておくこと)の田んぼではそんなことが可能となったのです。
多年草化と言うのは、田植えした稲株が稲刈りの後、地上部はいったんは枯れますが、地中の生長点が冬の間も生き続けて、そこから翌春に新しい芽を出して、また生長を始めることを言います。 (稲刈り後に生えてくる”ひこばえ””とは全く別物です。それと勘違いする人がとても多いです。)
写真は多年草化した稲の稔りの姿です。普通の稲の稔りと遜色ありません。しっかりと稔っています。
次の写真は第一回目に収穫した稲穂です。収穫方法は「抜穂」(ぬいほ)と言って、熟した稲穂だけを収穫したものです。
多年草化した稲は、一度に全部が熟すのではなくて、8月上旬から10月下旬までおよそ3か月間にわたって次から次へと連続的に熟していくので、抜穂というやり方で収穫するわけです。
2回の抜穂のあと、10月下旬にいわゆる稲刈りをします。
こうしてちゃんと稔ることも収穫できることも実証できたので、とても喜んでいます。
こういう米作り、こういう収穫方法なら素人も玄人もありません。機械も不要です。お金もほとんどかかりません。100%自然がやってくれるということは、作る手間も暇も費用もほとんどかからないんです。
これは自給自足生活をしたい人や半農半Xをしたい人にとって、あるいは、怠けて、楽して米を作りたい人にとっても、願ってもない米作りです。
この全く新しい、前代未聞の米作りの仕方を
「稲の多年草化栽培」
と呼びたいと思います。
「稲の多年草化栽培」を、日本の米作りと言う大局的な視点でとらえると、全く新しい米作りとそれに伴う、新しい生活様式(ライフスタイル)が見えてきます。革命的な要素も含んでいます。
その特徴と今後の課題について簡単にまとめると、次のようになります。
0.大前提
稲の多年草化には不耕起・冬期湛水の田んぼ(収穫の時以外は一年中水を張った田んぼ)にする必要がある。
1.革命的な側面
米作りの常識が覆る。
① 米作りは大変
→ 楽して、怠けて、収穫だけやればいい米作りが
可能となる
② 米作りは素人にはできない
→素人でも簡単にできるようになる
③ 人手が必要
→ 一人でもできてしまう
④ 機械や設備が必要
→ 機械も設備もほとんどいらない。
ただし、脱穀機ともみすり機と精米機はどこかで借りる必要がある。あるいは、その作業を委託する必要がある。(全然難しくない)
2.新しい「米作りのある生活」
①自給自足生活の中心である主食の確保が格段と簡単になる。
→ゆとりのある自給自足生活や半農半Xの生活へ。
②生産現場としての田んぼの概念が変わる
→多年草稲の田んぼは美しい「稲の庭園」として、
鑑賞の対象となりうる。 (タイトル背景の写真参照)
芸術的対象になる。
→田んぼの一部に自生した多年草化稲がある
だけでいいという意識が芽生える 。
→自然が与えてくれるお米だけで満足する生活へ
3.制約・課題
① 一年中水を確保できる場所がとても限られている
(最大の課題)
② 多年草化のメカニズムがまだよくわかっていない。
どこまで技術化できるのか。(最大の研究課題)
③ 抜穂(ぬいほ)、すなわち、穂刈による収穫は
非常に時間がかかる
(自給自足用田んぼなら対応できる)
④何年間収穫できるのか、不明。
(まだ3年以上の実績はない)
⑤大規模化、産業化が可能かどうかは全くの未知数。
(相当難しいと推定される)
今年は4回観察会を開催しましたが、合計で70名もの参加があり、人々の関心が高まってきました。参加者の中には来年から「稲の多年草化栽培」に挑戦する方も何人か出てました。また、今まで全く米作りに興味のなかった市民の皆さんに中にも「これなら自分にもできる。」と、興味を持つ人が大勢現れました。
ぜひ、日本各地で稲の多年草化栽培に挑戦する人が現れてくれることを願っています。
多くの方の挑戦とその結果を持ち寄ることで、多年草化栽培の実現性はどんどん高まるだろうと思います。
以上