鳩さん、見つけても食べないで!

 

津久井在来大豆の種まきで私が一番困っているのは、種を播くときです。というのも、大家族では大豆を自家採取して、それを播いているのですが、その種を鳩が食べてしまうからです。

これがまたふるっていて、播かれた種はよせばいいのに、わざわざ丸ごと地上に顔を出して、「鳩さん、どうぞお食べください」とやるのです。なんでそんなことをやるのかというと、その種が真っ二つに割れて、最初の葉(子葉)になるのです。P1060807

(右に顔を出した大豆。左は種が二つに割れ始めたところ。)

だから、たまったものではありません。鳩君たちはここぞとばかり仲間を連れてきて、片っ端から食べまくります。また、種が土の中にあっても、鳩君たちは上手に見つけ出して食べてしまいます。そうして一昨年は何枚もの畑で物の見事に種を食べ尽くされてしまいました。

そう書くと、では、他の農家もみな同じ被害に遭うのではないかと思われるでしょう。ところが、そうはなりません。というのも、普通の大豆は表面に忌避剤と呼ばれる化学物質が塗られているので、鳩君たちはまずくて食べる気にならないからです。しかし、私のところではそれも農薬には違いないので、とても買って使う気にはなれないのです。でも、そうすると、鳩君たちの猛攻撃に遭ってしまう。これは実に深刻な問題です。種が成長できなければ、その年の大豆の生産は全滅するわけですから、まさに死活問題です。

それで、その年はどうしたかというと、「叶わぬ時の神頼み」とよく言いますが、他にできることが何もないので、本気で神様に祈りを捧げて、種を播き直しました。すると、どうでしょう。どの畑でも種は食べられずに葉を広げて、その畑で生きていくことが許されたのです。

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無事に子葉(下側)と初生葉(上側)を広げ始めたところ。初生葉は小鳥のくちばしのように見える。「ピーチクーパーチク、よかったよう、よかった、よかった、よかったよう」とさえずっているかのようだ。

ただ、一枚の畑だけは、ほとんどが食べられてしまいました。そこは、スタッフに播いてもらい、終わるころ私が行って、祈りを捧げたところでした。何が違ったのでしょうか。それは、祈りの深さだと思います。自分で播いたところの方が種に愛着を感じますし、その分真剣みが強かったのでしょう。

このような体験から、真摯で真剣な祈りは天に通じることがあるということを実感しました。その時私が感じたことをもう少し正確に言いましょう。                                       生き物との共生を目指して、農薬や化学肥料を使わない農業を神様は喜んでいらっしゃる。だから、農薬のかかっていない自然状態の大豆の種を播いて、必死で神様に祈ると、神様はその祈りを聞き入れてくださって、鳩君たちが食べないように諭してくださる。すると、鳩君たちは素直に神様の言いつけに従う。そういうことが本当にあるのです。

大豆5

見事に生い茂った大豆

神様に祈ってから大豆の種を播くということは、去年も実践しました。お陰様で、大豆は無事生長することができました。「和み農」では、「神への祈りから始める」ことを基本の一つに挙げていますが、実はそのような実体験からそれが有効であることがわかって加えたものです。

小川

おいしいと言われる喜び

農業を営む者にとして、お客さんから「小川さんの作った野菜、おいしいですね。」と言われるのは、本当にうれしいことで、それに勝る喜びはありません。自分が育てた野菜やお米を食べた人が「おいしいなあ。」と感じて、喜んだことを知らせてくれると、自分も喜びを感じます。すると、今までの苦労が報われます。お店に荷造りした野菜を持って行って並べていると、ときどきそう言ってくれるお客さんに出くわします。そういう瞬間は神様からご褒美をいただいたように感じますね。         おいしいと言われて、喜びを感じるのはおおよそ食べ物を作っている人なら、お母さんでも、コックさんでも、お総菜屋さんでも、果樹栽培農家でもみなきっと同じでしょう。おいしく作ったものを食べて喜んでもらいたいというよき思いと、おいしいものを食べた喜びを作った人に伝えたいというよき思いが共鳴するときは、人の心の中で響きあう、なんとも美しい音色を発しているのでしょうね。そんな風に感じます。

ただ、ちょっとまじめな話をすると、おいしさには、食べて体に良いおいしさと、体に悪いおいしさがあることは言っておきたいと思います。大家族は、前者に徹底的にこだわっています。つまり、命を養う、生命力を高める、それによって、明日の活力を育む。そういう、生きるための役、健康増進につながるおいしさを追及しています。残念ながら、人の味覚は必ずしも命を養わない物でもおいしく感じてしまう欠点がありますね。今は特に人工的なおいしさ、つまり化学物質によって作られたおいしい食品や、化学処理されて作られた不自然な食品が非常に増えています。しかし、それらはむしろ体に害をなすおいしさです。そういう物を取り込まないためには、現代社会では健康な農作物や食品に関するある程度の関心と知識がないとだめですね。現代は、知的に食べる時代でもあります。

小川

虫食いモロコシでも売れる

最近ちょっとはまっているゲームをご紹介します。それは小売ゲームです。そのゲームはとても簡単です。売りたいと思う野菜を荷造りしてお店に並べて、どれだけ売れたかを競うゲームです。相手はお客さんです。

というと、なんだそれって、ただ野菜を売っているってことじゃん。そのどこがゲームなの?といぶかしがることでしょう。ごもっとも、ごもっとも。でも、それはれっきとしたゲームなんです。お客さんと楽しむゲームです。

例えば、長さが15cmしかない細身の大根。これは売れると思いますか?スーパーではそんなの、まず売ってないですよね。でも、売れるか売れないか、試してみるのは、一種のゲームでしょ?!あるいは、重さが1kg以上もあるサツマイモ。これは売れると思いますか?それを試してみるのも結構わくわくするゲームですよ!置かせてもらっているお店から拒絶されなければの話ですが・・、あるいは、お客さんから「客をばかにするな!」と怒鳴られなければ。

そうやって、このところ、いろんな「売れそうもない野菜」が本当に売れないのかどうか、ゲーム感覚で試しています。すると、どうでしょう。まさかと思うようなものでも結構売れるんです!

上で挙げた巨大サツマイモ。これは10個あるお店に並べてもらったら、ただ置いておいただけなのに、2日で完売してしまいました。その際、売れそうもない形はどんな形かって、そんなことも予想したんですが、それも当たりましたね。サッカーボールのような芋らしからぬお芋さんが一番最後まで残りました。 それでも、もらってくれる人はいたんです!

どういう売り方をしたかですって?みなさんに当ててほしいですね。当たった人には、先着一名様に巨大さつま芋を3個贈呈しましょう。これまた面白いゲームになりますよ。どうぞ、お問合せフォームから投稿してください。その際、住所をお忘れなく。

そんなこんなで、今までの農家の常識で、あるいは消費者でもある私の常識で、今までスーパーや八百屋さんでは見たこともないような野菜が実は結構売れるんだってわかって、感動しています。それで売れた野菜を列記しましょう。                                       ・虫食いトウモロコシ (お店の人にはけっこう不評でしたが・・・                                  ・間引き菜(大根、かぶ・・・ 普通、農家は捨てている。                            ・いろんな大きさの大根、キャベツ、白菜、ブロッコリー           ・いろんな形、いろんな大きさのサツマイモ、虫食いサツマイモ

言うまでもなく、虫食いトウモロコシが最もスリリングでしたね!絶対売れないだろうと思っていましたから。だって、がぶっとやたら、虫が出てきたなんてことになったら、2度とうちのトウモロコシは普通なら買ってくれないですよね。それでも、試しちゃいました!正直に「虫食いあり!」とはっきりわかるように書いたラベルを張って、並べたのです。そうしたら、結構、覚悟を決めて(?)買ってくれた人がいたのには、我ながら驚き、かつ感動しました。

そういうゲームをお客さんとの間であれこれやってわかったことは、有機栽培の野菜を買うお客さんの多くは、一番大切にしているのは、見てくれじゃないんだということです。本当に安全で、本当においしかったら、お客さんは見てくれが悪くても、虫食いでも、中に虫が潜んでいるとわかっていても、農家に付き合ってくれるんですね。これは農家にとっては、大発見ですよ。

私はこのようなゲームをして、消費者のみなさんを見直しました。そして、農家は既成概念や固定観念に囚われすぎているのではないかと思うようになりました。よく曲がったキュウリのどこが悪いという話は出ますが、消費者の懐の大きさはそんなものではないと思います。もっともっと大きいんです。

ちなみに、大家族では「できた野菜はみんなで食べてあげる」というモットーがあります。それで、今言ったようなゲームをやっているというわけです。それは、育ってくれた野菜さんに対する誠意だと思っています。きっと大家族の不器量野菜を買ってくださるお客さんにも同じような優しい思いがあるのでしょうね。うれしいことです。

小川