化学農法と有機農法の間に橋は懸るか

きのうのいのちいきいき栽培研修会では、化学農法(慣行農法)を実践する農業者と有機農法を実践する農業者は話が噛みあうのか、同じ土俵で相撲が取れるのかという点について、私の考えを述べさせてもらいました。ずっと昔からそのことについて考えてきましたが、私は次のような結論を出しています。

人間の世界では、20回農薬をかけていた農家が10回に減らしたら、「特別栽培」と表示することができます。それは「安全で安全な作物」です。4回農薬をかけていた農家が2回に減らしても同じです。一方、一切農薬も化学肥料も使わないで、とても安全な農作物を育てても、有機JAS認証を取らないと、有機栽培とか有機農法とか表示してはいけません。それも「特別栽培」とみなされます。その傍に、「栽培期間中、農薬・化学肥料不使用」と表示することは認められています。ですから、私の有機栽培の作物も「特別栽培」と表示することになります。有機栽培をしているのに、有機栽培と表示できないことに言論統制をされているかのような窮屈さを感じています。農薬を使ってある農作物と同じ枠(カテゴリー)の中に入れられてしまうことにも違和感を覚えます。ただ、そのことについては、ここではこれ以上突っ込みません。

ということで、化学農法農家と有機栽培農家は、心情的に、また理性的に、互いを認め合い、融和を図ることはできます。しかし、ほとんどの場合、本音の部分では、話は噛み合いません。なぜなら、双方が立っている土俵が異なるからです。それぞれの土俵には異なった決まり(ルール)があります。化学農法の土俵には農家中心、農家優先の決まり(ルール)があります。有機農法の土俵には、農家と生き物たちとの共生の決まりがあります。こうして、土俵が違うし、決まりも違うので、話が噛み合わないのです。

では、生きものの側から見たら、どうでしょうか。10回農薬をかける農家が畑に入ってきたら、きっとバッタもミミズも微生物もその足音を聞いただけで震え上がることでしょう。なにしろ、大量殺戮兵器を持った恐るべき敵が侵入してきたわけですから。年にたった1回しか農薬を使わない農家だとしても、彼らは震え上がるに違いありません。          一方、有機栽培農家が畑に入ってくると、害虫とみなされている虫は警戒するでしょう。もしかすると、「自然農薬」をかけられたり、指でつままれたりするかもしれないからです。しかし、微生物や普通の虫や益虫、小動物などは普通に生活を続けることでしょう。彼らはもしかしたたら、有機栽培農家の足音を好感を持って聞いているかもしれません。そして、自然農法で生き物と共生しようと思っている農家が畑に来たら、ほとんど全ての生き物はその農家に「いらっしゃい」と声をかけて、普通に生活を続けるだろうと思います。

このように考えると、生きものの側からすれば、農薬を1回かける農家も10回かける農家も大量殺戮兵器を有する敵です。一方、有機栽培農家は味方か、そうでないにしても許せる相手だと思うことでしょう。生き物たちは間違いなく化学農法農家と有機農法農家を峻別していると思います。彼らからすれば、化学農法(慣行農法)と有機農法の間に懸ける橋は全くないと断言すると思います。

私は、環境の世紀、21世紀は、このような生き物の立場から考えることが非常に大切だと思います。私は「生き物の側に立つ」、「自然の側に立つ」、「生き物の視点で考える」ことを基本としています。

小川 誠

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